死神右京

1/1
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ

死神右京

古びた長屋 木造建築である。 入り口はふすまか障子を張ってある。 ところどころは、木製の戸もあるようだ。 道路は、昨日の雨でぬかるんでいる。 人力車が入ってくると、動けなくなるようなぬかるみだ。 人々は、道の中央をあるいているようだ。 今は曇天。 またひと雨、来そうな空だった。 その男はやってきた。 黒い羽織に黒いはかま。 そして黒い鞘の不気味なひと振り。 まるで、死神のような男だった。 髪は結っていない。 うしろで束ねているだけだ。 今時珍しい。 髪結いに行く銭もないのか。 右手首には、刀傷。 手の甲までの傷跡だ。 顔は無表情。 今の時代にはあまりない彫りの深い、少し長めの顔だった。 そして、この死神は、長屋のひと部屋に入って行った。 するとすぐに出てきたのだ。 左の家の扉をたたいた。 「ごめん!いらっしゃるか」 「おーい!」 出てきた男は、血相を変えた。 殺されるのか!と思ったようだ。 「それほど驚くではない。隣に越して来た、  右京和馬だ。よろしくな」 死神は、酒瓶を隣人に渡した。 「近づきのものだ。取っておいてくれ」 「へい、源太ともうしやす。今後ともよろしく」 「源太か、強そうだな。よろしく頼む」 死神は、まるで、人を斬ったあとのような風貌で、 部屋に戻ったようだ。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!