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とある長屋に喜三郎という男が住んでおりました。
九尺二間の長屋はどこも満員御礼が当たり前。井戸端は賑わい同じ長屋に顔を知らぬものなどいないようにも思われます。にもかかわらず、喜三郎は隣りの住人だけはどんな人物が住んでいるのか知りません。
「なぁ、お鈴さん。俺の隣りにいってぇ、どんな奴が越してきたのか知っているかい?」
喜三郎は端から二番目に住んでおりました。端から三番目に住むお鈴夫婦の声は仕切られた九尺二間の向こうからも聞こえてきます。
それくらい薄い仕切りで区切られているというのに、一番端に住む人物はかなり前に越してきたと噂話に聞きますが、一向に物音一つ聞こえてきません。
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