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「おや、遅刻の二人組も音楽部に入部してくれるのかな」
「綾小路先生」
綾小路先生が、一年生の女子の取り巻きを何人も従えて音楽室へ入って来た。利香たちを見るなり、嬉しそうな顔をしたけれど、そのまま取り巻きに奥へ奥へ押し流されてしまいそこで会話は途切れた。
「先生の専攻はピアノなんだろうね」
先生がピアノの蓋を開けて椅子にほんの少しだけ腰を下ろすと、部活の説明をしていた数人の先輩たちでさえピアノの回りに集まって来る。
白いピアノが磨かれた床に映える中、ボールが弾けるような音がした。
ポーンポーンと、大きく弾ける。
その音が、先生の中指が鍵盤を弾く音だと気づいたのは、辺りがしいんと静まり返ったからだ。
繊細で力強い音色。先生の細い腰からは想像出来ない。
「うーん。ちょっと硬いかな。もう少し甘い音色に弄っていい?」
先生は今度は上の蓋を開けて、調律まで始めてしまった。
「あーゆー完璧な先生は王子様ッて感じで隙が無いよね」
「……」
「みなもちゃん?」
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