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兎のように走り回ると、運動場には男子の塊が至る所にあった。
運動部には圧倒的に男子が集まっている。文化部にはほぼ見かけなかった理由は此方に居たからだ。
野球部なんてもう何十人いるのか分からないけれど、大きな集団が部室の前で話を聞いていた。
見えなかったけれどあの集団の中心部に近衛が居るならば、美術部には居ないのかもしれない。
美術部は、昨日体育館の近くの渡り廊下で見かけた通り、体育館隣の校舎、一階にある。
中庭の大きなサクラの木の影になっていて、少しだけひんやりした廊下を歩くと、中は静かだった。
中を覗くと、見学者用に壁や机の上に絵を飾っているのが見える。
だが、中に人の気配がしなかった。
「あのー」
ガラガラと立て付けの悪い扉をスライドさせたら、ツンとした絵具の匂いが充満している。シンナーの匂いだろうか。
思わず眉を潜めると、足がグチャりと何かを踏んだ。
床が、緑色の苔一面に染まっている。
「絵具?」
どうやら利香は、零れた絵具を思いっきり踏んでしまったらしい。
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