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「わ。見たいです。でもコンクールで賞を取った先輩のも見たいです」
「わわわわ私のは、その本校舎の踊り場とか理事長の応接間とかバラバラに展示しちゃってて、ごめんね、その分かりずらいって言うか」
理事長の応接間……。
昨日、利香は理事長と勝負を誓った場所だ。あまりセンスのいい家具が無かったのだけは覚えているけれど、絵は気づかなかったのは悔やまれる。思い出すのは窓から射し込む光に反射された理事長の額だ。
「いいえ。じゃあ、近衛先輩の見せて貰おうっと」
「こっちだよ」
それは美術室の一番奥、目立たない端に、大きな絵が額に入れて飾られている。
タイトルは『夢』。何層にも深い青が塗られていて、首を傾げて横にしてみても足と足の間から逆さまに見ても、何も見えて来ない。
「何をやってるんだ?」
足と足の間に、土だらけの野球のユニフォームが見えて、思わず顔を上げると、息を切らした近衛の姿が現れた。
「わ。なんで居るの?」
「自分の部活に来て何が悪い?」
野球部の見学者があんなに居たのに、美術部にも顔を出そうと時間を見つけてやって来る当たり、真面目すぎる。
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