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近衛は、帽子を脱ぐと頭を振って汗を拭い、美術部を見渡す。
その余りの鋭い眼差しに、飯嶌部長が固まっているのが伺える。
「閑古鳥が鳴いている」
理由を説明しようと二年生が一歩踏み出すけれど、飯嶌部長が固まって下を向いてしまったので他の部員が止めた。
どうやら、飯嶌部長は近衛が怖いらしい。
昨日も、何か話しかけたけれど、すぐに逃げて行ったのも記憶にある。
「ねー。この抽象画の青って、空?」
話題を変えて話しかけると、近衛は私の方へ視線をやる。
「……そうだ。夢は甲子園だからな」
「雲もないし、先輩もボールもないじゃん。抽象すぎますよ!」
「――難しいことを言うな。俺はただ、好きなように描いただけだ。描いた俺だって未だに抽象画なんぞ意味が分からない」
「駄目じゃん」
「お前な、俺は一応、先輩なのだが?」
フレンドリー過ぎると睨まれたが、威圧的と言うより困った雰囲気を醸し出していたので、嫌ではなく困惑らしい。
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