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意外と大胆な人だなと思いつつも、近衛のキャンパスを覗きこむと、花ではなく青が塗られている。
「あれ、花は?」
「俺は抽象画だって言ったろ」
「じゃあ、なんで此処で描いてるの?」
「野球部の部室からは近いし、玲音もいる」
「ふうん」
色々と事情があると言う事で、これ以上は聞かないようにしておこう。
雨を含んだ雲だと思っていたが、朝方にもう降っていたらしい。園芸部員は、皆ジャージに軍手で温室周りの雑草を抜きだした。
「おはよう。早速今日から来てくれたんだ」
「菫先輩っ」
「肥料を混ぜる作業の方をお願いしてもいい?」
「はい」
菫は長いホースを持って花壇に水を巻いている。その横で水色のビニールシートに土と肥料を混ぜている数人の生徒もいた。
「……此処まで濡れなかったか」
近衛が、黒のレインコートの帽子を脱いで静かにそう尋ねる。
菫は、目元を優しく綻ばせながら、『うん』と小さく頷いた。
「そう言えば今日部活申請したから、本当に菫先輩の好きな人について聞いておかなきゃですね」
「はあ?」
菫が慌てて声を裏返す。
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