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ただ、今すぐ謝って誠意を見せても、それは安っぽく軽い言葉にしかならない。
「まずは朝部を完璧にこなしてから――放課後頑張る」
「そうだな」
短く近衛が言った後、それ以上は何も言わなかった。
自分が何か言って、利香の決意に影響を与えないようにするためである。
ただただ、真っ直ぐに目標だけを見て走ったら、大事な感情を見逃してしまった。目標だけを見ていたら、自分を見てくれた人の気持ちに気づかずに傷つけてしまう事もある。
「おっはよーん。あー、てめーやっぱ先に終わってたな」
「お前がコースを外れて猫を土手で遊び始めたんだろ」
「だってあの猫が俺を誘ったんだよ。さ、描こうぜ描こうぜ」
落ち込んでしんみりしていた空気を、突如やって来た、ピンクのレインコートの玲音が追い払ってくれていた。
空の曇りも、玲音の空気の様に晴れ晴れと太陽を見せてくれたらいいのに。まだ心は誰も晴れていない。
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