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その胸を抉る様な気持ちの名前を、利香はまだ知らない。自分と兄のことしか考えていない、見えていない幼いその気持ちに、周りを見る余裕はないのかもしれない。
歩夢に近衛、担任に部長格の人々。
普通の、――恋をするのが楽しいはずの高校生活から、大きく逸脱しようとしていた。
「で、さっきの信頼関係壊しちゃった依頼人って誰?」
「んんん。依頼自体秘密にしたいのかもしれないから、先に相手に聞いてからでもいい?」
そう尋ねると、歩夢の目が大きく見開き、利香の頭を両手でぐしゃぐしゃにした。
「そうだよ、そんな感じ。今のお前の考えは正解だ」
「へへ」
ただ、もう一度、菫先輩呆れられたくないと、思っていただけなのだが、それは正解だったらしい。
代わりにやってきたのは、サッカー部だった。
「すいませーん、恋愛派遣部兼公務部の兎輝です!」
雨の今日、サッカー部は一階の校舎をランニング中で、部室に居たのはボールを磨いているマネージャーたちだった。
サッカー部も大きな部活の為、マネージャーが8人もいるようだ。
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