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そんな彼女も、制服を着る頃になると、男勝りな武勇伝はなりをひそめてゆき、生来の芯の強さだけはそのまま、徐々に落ち着きを身につけ、しとやかな女性へと成長していった。
やがて、運命的で一般的な恋に落ち、結ばれ、子をなし、幸福を絵に描いたような家庭を築く。
彼女の子はすくすく育ち、大人になって新しい家庭をつくり、子をなした。
彼女は孫に囲まれ、一段と優しい表情になる。
だが、彼女の夫がこの世を去ってしまうと同時に、彼女の中でなにかが変化した。
彼女は孫や子に囲まれているのにも関わらず、常に独りでいるようになっていく。
心が今という時間、ここという場所に留まることができなくなり、あっちへふらり、こっちへふらりと彷徨い出す。
はじめは心配していた子や孫も、しだいに「もう年だから」の一言で済ますようになった。
私にとって、彼女は唯一の良き理解者だった。
人の群れを眺めることはあっても、その中に交わることをしない私にとって、彼女は唯一の人との接点でもあった。
人間の集団を、私はやっかいなものだと感じている。だから関わりたいと思ったことなどない。
しかし、孤独とまでは言わないが、ひとりというのは、少々退屈ではあった。
もちろん、やっかいなことに巻き込まれるくらいなら、退屈でいる方がずっとマシではあるのだが。
ひとはなぜ、わざわざ群れて、互いをおとしめ合おうとするのか?
私には理解できないしする気もない。
理解など、する必要などないのだ。
なぜなら私はひとつの視点なのだから。
正義でも悪でもない。
何事にも関わらず、交わらず、中立ですらない。
ただの視点。
ポツンと孤立した観察するもの。
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