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途中まではいつも通りの夜だった。 何のへんてつもない、一昨日とも明日ともつかない、いつも通りの無意味で無価値な夜。 においがするのに気が付き、ついで近づいてくる男の存在に気が付いた。 ぱっと見た感じ、ただの千鳥足の酔っぱらいだが、鉄さびの腐ったような生々しく強烈なにおいが、そうではないのだと知りたくもないのに教えてくる。足から血液を垂れ流しているのだろう。 そのせいで、うまく歩けずに千鳥足のようになっている。 以前、幼子が景気よく転んで、膝小僧から血を出し大泣きしているの場面を目撃したことがある。 男は幼子の何倍もの傷みを感じているはずだ。泣き叫び転げ回ってもおかしくないような状態なのに、荒い呼吸を繰り返してひたすら前進している。まるで、何か恐ろしいものから逃げているみたいに。 よたよたと頼りない足取りで接近してくる男だが、私のことはあまり気にしていないようだ。と、いうよりも私の存在に気が付いていないのではないだろうか。もし気が付いたのなら、近寄っては来ないだろう。私の姿は、夜になると特に不気味で、避けられることがあっても近寄られることはまずなかったのだから。 男は手を伸ばせば届きそうなくらいにまで近づいてくると、力尽きたかのようにしゃがみこんでしまう。 もちろん私はなにもしない。 しない、というよりもできない。 男は私に対し全く注意を払うことなく、足からじくじくと血を流し続ける。早く止血しないと死んでしまうのではないか、などと思うが、それは男もわかっているはずだ。 私はただ、ひとつの視点としてありのままを眺め続ける。
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