2

4/4

2人が本棚に入れています
本棚に追加
/19ページ
当然のことだが、警察が私に接触してくるようなこともなかったし、逆に私から彼らに接触するつもりもなかった。 あり得ない仮定ではあるが、もし「殺人事件の犯人を見ましたか?」なんて尋ねられても、答えはノーなのだから、私にできることなど本当になにもない。 男が怪我をして、なにかから逃げるような素振りをしていたのなら見たし、複数の気配が男を暗がりへ引きずり込んだのも知っている。 だが、それだけだ。 私のいる位置からはなにも見えなかった。 客観的事実として、私は無関係だ。 しかし、事実には関係なく、人々が私を見る目が変わってしまった。 それまでだって、いい顔をされていたわけでもないのだが、はっきりと嫌悪の色があらわれるようになったのだ。 まるで汚いものでも見るような、見てはいけないもの、それどころか存在さえしてはいけないものが、うっかり目の前に現れてしまったような、そんな表情。 私に一体なにができるというのか。 どれだけ言葉を尽くしたとしても、そんなものはきっと聞き入れてはもらえない。 それどころか、必死になればなるほど状況は悪くなるに決まっている。今まで、そういった人間たちの様子を嫌というほど見てきた。 私は、風に吹かれた柳だ。 しなやかに枝を揺らし、荒れ狂う風を巧みに受け流す、柳。 どうしてもささくれだった気持ちになるのは抑えられないが、日々は確実に流れていく。いちいち反応などせずに、時間の経過と共に、また以前のようにただの視点としての立ち位置に戻れるのを、ひたすら待てばいい。 そう、私は視点。 正義でも悪でもなく、中立という立場すらとらない。 ただひとつの視点であり、観察するもの。 今はそのバランスが崩れ、たまたま悪い意味で目立ってしまっているが、これも一過性のものだ。すぐもとに戻る。 その時はそう思っていた。
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加