1

3/6
前へ
/19ページ
次へ
その日、いつも通り元気に学校へ行った彼女が、日が落ち暗くなっても帰ってこない。 心配した彼女の母親が探しに行き、しばらくすると泣いている彼女をおぶって戻ってきた。 なにがあったのかと思えば、木から落ちて足を捻ったのだと、恥ずかしそうに彼女が教えてくれた。 木登りが得意な男の子がいて、彼女の前ですいすいと木に登ってみせたそうだ。 そして、木の上から彼女を見下ろして、女のお前には真似できないだろう、と言ったのだと。 気の強い彼女がそんなことを言われては、当然黙ってはいない。 もともと運動神経の良い彼女は、後先考えずにぐんぐん木に登り、男の子よりもずっとずっと高く、枝の細い所まで登ってしまった。 木の上で感じる風や、見下ろす街並み、見下ろされて悔しがる男の子について、本当に嬉しそうに、楽しそうに語ってくれた。 おかげで私まで非常に嬉しく楽しい気分になったのを覚えている。 木登りなんてしたこともないのに、まるで私も木を登ったことがあるような気さえした。 だが、問題はここからだった。 登るよりも降りることの方がずっと難しい上、日が傾きはじめて足場が見えにくくなっていた。男の子は女の子に負かされて、とっとと帰ってしまっていたから、彼女は一人きり、自力でどうにかするしかなかった。 何度もずり落ちそうになり、冷や汗をかきながらも、着々と降りることができ、これなら大丈夫そうだと思ったそうだ。 地面が近くにあるとわかって、もう少しだと感じたとたんに気がゆるみ、あっと思った瞬間にはもう落ちていて、足を捻ってしまったのだと、屈託なく笑いながら話してくれた。
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加