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その日、いつも通り元気に学校へ行った彼女が、日が落ち暗くなっても帰ってこない。
心配した彼女の母親が探しに行き、しばらくすると泣いている彼女をおぶって戻ってきた。
なにがあったのかと思えば、木から落ちて足を捻ったのだと、恥ずかしそうに彼女が教えてくれた。
木登りが得意な男の子がいて、彼女の前ですいすいと木に登ってみせたそうだ。
そして、木の上から彼女を見下ろして、女のお前には真似できないだろう、と言ったのだと。
気の強い彼女がそんなことを言われては、当然黙ってはいない。
もともと運動神経の良い彼女は、後先考えずにぐんぐん木に登り、男の子よりもずっとずっと高く、枝の細い所まで登ってしまった。
木の上で感じる風や、見下ろす街並み、見下ろされて悔しがる男の子について、本当に嬉しそうに、楽しそうに語ってくれた。
おかげで私まで非常に嬉しく楽しい気分になったのを覚えている。
木登りなんてしたこともないのに、まるで私も木を登ったことがあるような気さえした。
だが、問題はここからだった。
登るよりも降りることの方がずっと難しい上、日が傾きはじめて足場が見えにくくなっていた。男の子は女の子に負かされて、とっとと帰ってしまっていたから、彼女は一人きり、自力でどうにかするしかなかった。
何度もずり落ちそうになり、冷や汗をかきながらも、着々と降りることができ、これなら大丈夫そうだと思ったそうだ。
地面が近くにあるとわかって、もう少しだと感じたとたんに気がゆるみ、あっと思った瞬間にはもう落ちていて、足を捻ってしまったのだと、屈託なく笑いながら話してくれた。
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