第1章

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 明治七年、春。恩人である佐賀の乱の首謀者・江藤新平を断罪するため、河野敏鎌は裁判長として佐賀に赴く。恩人を殺したくないという思いと、職務上での責務とのはざまで悩んだあげく、江藤を死罪に処すことを決めた河野は、内務卿・大久保利通らとの密談のさなか、政府側の密偵・しのに出会う。しのは江藤が「影の勢力」を操り、政府を転覆しようとしている、と告げ、河野を愕然とさせる。  やがて江藤と思しき男が捕縛されるが、しのは江藤が書いた一日違いの手紙、江藤が逃走の機会を自ら拒否したことなど、いくつもの証拠を挙げ、見事な推理でその男が、江藤の替え玉だと断ずる。河野はしのに、来るべき裁判で、その男の正体を突き止めることを約束する。  裁判に臨んだ河野は、法廷に現れたその男が恩人・江藤であるかも知れぬという重圧から、男が替え玉であるか否かの確信が持てないまま、昏倒してしまう。男を見せしめのため直ちに処刑するのか、替え玉か否かの調査を続けるのか。悩む河野にしのは、第二の替え玉を用意し、これを処刑したことにすれば、見せしめの効果も上がり、替え玉か否かの調査も続行できる、と提案する。しのの提案を受け入れた河野は、男に死刑の判決を告げるが、河野がそこで知ったのは、男に関する意外な事実だった。  男は、本物の江藤新平だった。一連の事件は、すべてしのが江藤と仕組んだ芝居だった。真相に気づいた河野は、しのに事実関係を問い質す。死の覚悟を決めたしのだったが、河野は自らの葛藤を救ってくれた恩人として、しのを赦す。しのもまた心の救いを得て、闇の中へと去ってゆく。
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