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あたりを見渡すと数え切れない人の群れに、見たことのないほど大きな大きな建物があった。ここはカラドリオスという街で、ここら一帯ではかなり大きい方の街だろう。
よく見るとあらゆる建物に白い鳥をモチーフにした旗がかかってる。
(あれが街の象徴なのか?)
「カラドリオスって言うんだってよ」
―――ビクッ!
突然、後ろから声がして10cmほど飛び上がった。ゆっくりと息を吸い込み自分を落ち着かせてから振り返る。そこには活発そうな好青年が立っていた。
「やあ、俺はバンだ!街の案内人をやってるんだ」
背は180はあるだろう。俺より年上で20過ぎに見えた。いい感じに日焼けしてる体は健康的な印象を与えてくる。筋肉もバランスよくしっかりついていて女性に好かれそうな好青年、という感じ。
(硬派そうな顔をしてるのに、笑うと一気に砕けた雰囲気になる男だな)
俺がジロジロと睨んでるのも特に気にせず握手を求めてきた。
「怪しまれるのは慣れてる、でも実際に困ってるんじゃないか?」
おずおずと握手に答え、考え込む。確かにこのままじゃ右も左もわからない。危なそうな場所を聞いておいてそこに近寄らないようにしたい、けどな・・・。
「…俺は、ルトだ」
「そっか!ルトか!よろしくな」
にこやかに笑いながら俺の手を握りブンブンと振ってくる。俺は呆然としつつも気を取り直して口を開けた。
「えっと、バンさん」
「バンでいいって」
「…バン、案内の件だけど、丁重にお断りする」
「じゃあまずは噴水公園にって――えええっ?」
「だから、断る」
「いやいや、でもほら......ハア。」
俺の顔を見て冗談じゃないとわかってくれたようでバンは言葉を途切れさせた。
「…わかったよ、気が向いたときにでも声かけてくれ」
俺の心情を察してか深く踏み込んでこなかった。
「街観光楽しんでくれよな」
そういって去っていく。バンの大きな背中はすぐに人混みのなかに混じって見えなくなった。その寂しげな背中を見て良心が痛んだりもしたが、ダッツの件以来俺は人を信用しないようにしてる。どんな相手でもだ。
この街でもそのつもりだし、変えるつもりもない。
(どこに悪魔がいるかわからない・・・どいつが悪魔落ちしてるかも、わからないんだ)
信じない、信じてはいけない。ぎゅっと拳を握りしめた。
=ルトにい?=
リリが心配そうに鳴く。それに気付いた俺は誤魔化すように伸びをして歩き出した。
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