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息を吸うのもためらうほどの悲しい声。
『どうして・・・お前さえいなければっ!』
ダッツが憎しみを込めて睨んでくる。
「違う!!」
遮るように俺は叫んだ。
―――ズシンッ
足が急に重くなったかと思ったら、何かが俺の足にしがみついていた。その何かが顔をあげた時、俺はすくみあがる。
「ま、マスター...?」
『どうして、どうしてリリだけ助けて俺たちは見殺しにしたんだよお』
「っ!!」
目から血の涙を流し、切実に訴えてくる。
“リリだけ助けて”
“俺たちは見殺しにした”
マスターのセリフにショックを受けて、俺はぺたんと床に座り込んでしまった。それを見たダッツとマスター、イワン、懐かしい面々が襲いかかってくる。
―――ガブッ
ダッツに首を噛まれた。
「いっ...つ!!」
痛さでやっと目が覚め、腕を振り回す。ダッツ達が俺の腕を避けるように体を引いた。その隙に逃げようと腰を上げたが、足首をつかまれ引き寄せられる。
「やめろ!来るな!!」
首に腕に足に噛み付かれる。不思議と血は出てこない。その分・・・皆の悲しみが入ってくる。
「やめ、ろ!」
皆の悔やみ、悲しみが、どんどん・・・
=ルトにい!=
「やめてくれっ!!」
=おきて、ルトにい!!=
「え・・・、その声はリリ・・・?」
俺は弾かれたように立ち上がる。
「リリ??!」
=ルトにい!おきて!=
「そうか、」
これは夢、夢なんだ・・・!
そう気づいた瞬間、世界がはじけて意識が途絶えた。
「――――っは!」
俺は飛び起きた。びっしょりと冷や汗をかいてる。
=なあんだ起きちゃったか=
「!!お前は...!」
俺のすぐ後ろに不気味なものが座り込んでいた。頭部だけ人の顔で、体は蛇、背中のあたりに翼をはやしてる...とにかくおかしなものが飛んでいた。
(このゾッとする感じ、悪魔か...!?)
散々悪魔学を叩き込まれた俺でも流石に本物を見ると一歩引いてしまう。
=俺っち特製の夢、どうだった?=
ケタケタと悪意のこもった笑みを浮かべる。特製の夢か...なるほどな。
「お前、インキュバスか」
=おっよく知ってんじゃん=
悪夢や淫夢を見せてその間に人間の精気を奪う、代表的な悪魔だったか。
「お前こそ俺が牧師だと知って襲ってるのか?」
悪魔にとって教会と牧師は最悪の存在だ。神聖な場所にいれば弱い悪魔は消失してしまう場合もある。
=ああ、知ってるさ=
悪魔はにやっと笑い、舌なめずりをした。その様子に怯える感じはない。
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