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「・・・バン・・・?」
「大丈夫、俺は簡単に死にゃしない」
子供を諭すように背中を摩られる。その手つきは恐ろしいほど優しかった。出鼻を挫かれ、さっきまでの怒りを飲み込んだ俺はぼそぼそと呟いた。
「・・・馬鹿か・・・相手は悪魔なんだぞ」
牧師でもないお前が太刀打ちできるような相手じゃない。
「だとしてもだ。俺は少なくとも自分の身ぐらいは守れるつもりだ。ルトに気遣ってもらう必要はない。」
大丈夫だと力強く言われ、俺は促されるように頷いてしまった。
「...うん...ごめん、悪かった」
「...わかればいい、それで?」
「へ?」
バンに抱かれて身動きのできない状態のまま顔だけ上に向ける。
「で?いう事があるだろ?」
「?」
「俺にどうして欲しい?」
そういってバンはにこっと爽やかに笑った。その笑顔を見せられもう俺は・・・突き放す気にはなれなかった。
「・・・・・って、手を貸して、...くれ」
「よくできました」
頭を勢いよく撫でられる。
―――わしゃわしゃ!
この勢いで撫でられ続けたらハゲてしまう。俺は目の前の胸板を押し、なんとか体を離させた。バンは少し不満げな顔をしながら、しぶしぶという感じに隣の席に座った。
「なんだーさっきの泣きそうな顔はどこいったんだよー」
「はああ?いっ、いつ俺が泣きそうになったんだ、寝ぼけてるのかお前」
一体どのタイミングで泣いたんだ・・・いや、泣いてないけども。
(バンにきつく言う時、ちょっと不安になったけど)
それだけだ。
「?!まさか、無意識だったのか!?」
俺が意味がわからないという顔をすると、バンが飛び上がるようにして驚いた。
「だから何がだよ!」
俺はそっぽを向いて、奴に見えないように目を拭いた。
(大丈夫だよな??涙なんかでてないよな?)
拭き終えてバンの方に視線を戻すと、不思議そうというか意外そうな顔をしたバンがこっちを見ていた。
「...おったまげた。ルト・・・モテるだろ、男相手とか特に」
「...」
何故それを。
(まあ、もてるというより巻き込まれるって言い方のほうが正しいけども)
俺が複雑な顔をして俯くと、肩に両手を置いてくる。
「ルトはそれが外見のせいだと思ってるだろうな。でも違うぜ、男は単純だがカンがいい。お前のそういうとこに気付いて近寄ってきてんだよ。」
「?・・・何の話だ?」
「まあ、気をつけろってことだ」
「どう気を付けろっていうんだよ」
なんだそれは。こんな投げやりな助言、前にも聞いたぞ。いつだっけか。・・・あ、そうか。悪魔学の時か。
“見分ける方法はひとつ。舌です”
“確認しにくいので結果的な解決にはなってない”
“気をつけるように”
おぼろげに思い出す。そうそう、確認できないのにどう気を付けるんだよって思ったんだよな。
「ーっ!!!って、そうだ!悪魔は舌で見分けれるんだ!」
「お?舌がどうした??」
「バン!早速頼みたいことがある!」
俺は椅子から立ち上がり考えをまとめようと机の周りを歩いた。バンはやれやれという顔して、すぐに笑顔に戻る。
「はは、いいぜ、どんとこいだ!」
その自信ありげな態度を見てるとこっちもなんとかになりそうな気がしてくる。
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