第1章

3/27
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/87ページ
 本を読んでいる女の子が目に入る。わたしがだれているのもどこふく風って感じ。教室に二人だけだっていうのに、自分の世界にゴーゴーゴーですよ。  向き合ってみる。覗きこんでみる。うん。ピクリとも反応しない。優雅にページなんて捲っちゃってさ。少しくらい注意したり、目線だけでもくれたりしないもんかな。すいませーん、めせんくらはーい。いいねいいね、かわいいねきれいだねうへへへ。  完全にやる気がなくなってふざけていると、熱っぽい風が、肩より少し長いエリカの髪を揺らした。その髪をおさえるしぐさが本当に絵になっていて、ちょっと見蕩れてしまう。いいなあエリカ、綺麗で。髪さらさらだしなんか艶っぽいし和服とか着たら似合うんだろうなあ。目の大きさならたぶん負けてないけど、それだけでバランスの良さには勝てっこない。くそう、このべっぴんさんめ。  ためしにわたしも髪を伸ばしてみようか。それだけで変わるかどうかわからないけど、たぶん無理だ。首より長くなるとくすぐったくて。それに暑いし。パーマでもかけてみようかな、エリカがさらさらストレートで、わたしはゆるふわパーマ。長さもロングとショートでなんかいい感じじゃない? なんだっけ、きんこーがとれる? そんな感じ。 「さっきから、何してるの?」  くるくると髪の毛をいじっていたら、そんな声が聞こえた。女子としては低い、声変わり前の美少年みたいな声。美少年ね、そこ重要。だけど良く通る、しなやかな、りんとした声。エリカの声だ。エリカは背もあるし綺麗だし、それなのにいかにも女の子っぽい可愛い小物とかつけてたり、かわいらしい雰囲気なのに、話すとドキッとするくらい色気がある。同じクラスの、いや全校生徒合わせても、男子生徒にはこんな色気はない。ちょっとは見習え男子諸君。  わたしは、エリカの声がきらいじゃない。本人は気にしているみたいだけど。  この声を独りじめできるから、わたしは放課後こうしてがんばって勉強しているところもある。エリカがいなかったらたぶん一日もたない。一人でやってもわからないってのもあるけど。  エリカは本から顔をあげないで、字を追っている。まるで話しかけてなんかいないとでも言いたげに、澄ました顔で。でも、ちゃんと話を聞いてくれようとはしている。エリカの癖で、人と話す時、耳に髪をかけて、小さくて可愛らしいその耳を片方だけだすんだ。
/87ページ

最初のコメントを投稿しよう!