第1章

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 露わになった首筋が少ししめっているように見える。ほらやっぱり、髪が長いと暑いんだ。わたしには無理。その首筋を隠す様に、細く束になった髪の毛が耳からこぼれる。  なんだかそれがとても夏っぽかった。汗ばんでいる肌を見ているっていうのに、エリカの肌が白いから、何処か涼しげにも感じる。 「もう夏だよね」 「突然だね」 「だって夏だなって感じたんだもん」 「そうだね、確かに、梅雨はすっかり明けてしまったね」 「残念?」 「少しね」 「雨好きだもんね」 「うん」 「なんで雨なんか好きなの?」 「何で雨が好きか、か。そうだなぁ」  顔を上げて、本を下ろして外を見て、ううんと考え出す。そんなにむずかしい質問はしていないつもりなんだけど。きいておいてなんだけど、好きだから好きって答えでべつにいいのに。  だけどエリカはまじめさんだから、考えだしてしまうと自分の中で納得がいくまで考えてしまう。考える時、少し眉間にしわが寄る。整った顔をしていらっしゃるエリカ様は、考えているときの顔を怒っていると勘違いされることが多い。こんなところに弱点というか欠点みたいなものがあるとは。おそるべしべっぴんさん。  エリカの目には雨でも見えているみたい。目を細めて、微笑んだ。 「なんでかな。私はどうして雨が好きなんだろうか」  なんだかごまかされたような感じ。気のせいかもしれないけど。  じっ、とエリカの横顔を眺めてみるけれど、嘘を平気でつけるタイプだからなあ。なんか言いかた悪くなっちゃったけど、エリカは感情が表にでにくいっていうか、隠すのがうまいから、無理していることに気づけないことがある。というか、ほとんど気づいたことない。わたしが鈍いのかな? もしくはどっちも? それ最悪じゃないですか。  まあいいや。どうせわかんないし。考えるのめんどーい。秘密にしたいことなら無理にきくのもお上品じゃないことよ花菜さん。そうね花菜さん。  エリカの視線が幻の雨から帰ってきた。それから、恥ずかしそうに笑った。 「答えが出たら、教えるよ」 「どまじめさんなんだから」  また本を読み始めるのかと思ったら、しおりを挟んで閉じてしまった。 「もういいの?」 「そろそろ下校時間だからね」 「まだ三十分くらいあるよ」 「花菜のやる気はもう三分だってもたないでしょ?」 「正解」  さすがだよエリカくん。
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