第1章

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「だったら今日はもう切り上げよう。まだ後一週間あるからね」 「うわあいやだあもう無理だあ」 「夏休みの補習を受けたいなら止めていいよ」 「わあい勉強がんばるぞー」 「よろしい。明日からも頑張るように」 「はいせんせえ!」  返事だけはいいのがわたしの自慢。それと切りかえの速さも。エリカが本を閉じたんだからわたしだって教科書とノートと問題集を閉じるよ。閉じまくりだよ。  ペンの進みよりも数倍は速いわたしの撤収作業に、エリカは苦笑いを浮かべるので、満面の笑みで返してあげた。あーおわったおわった。今日もがんばったわたし偉い。  かばんに全部しまいこんで立ち上がってぐっと伸びてみるとなんの骨かわからない骨がぱきぽきすごい勢いでなりだす。姿勢が悪いせいだ。でも集中するとそんなこと気にしてられないし、その方がやりやすいんだからしかたない。勉強以外は姿勢よくしていれば問題なし。ナイスバデェも崩れないようにストレッチもしてるんだから、いつもしない勉強のときの姿勢なんて気にしてらんないね。  エリカは本をかばんにしまうと、肩にかけて立ち上がった。 「じゃあ、帰ろうか」 「うん。あ、帰りにさ」 「アイス食べたいんでしょ?」 「どうしてわかった!」 「何となく」 「食べたい食べたい! 食べいこう!」 「太るかもよ?」 「う、い、いやだいじょうぶだし。全部胸にいくし。もうぼいんぼいんだよ」 「確かに、私よりあるもんね」 「やだそんな見ないでよ恥ずかし――」 「胸もお腹も」 「うるせえ!」 「ふふふ。太った花菜も可愛いかもね」 「いやあ!太るのやだあ!」 「じゃあアイスは」 「食べに行こう!」 「……矛盾がすごいね」 「なんと言われようと今はアイスの気分! アイスを食べずに家になんて帰れない! 帰りたくない!」 「分かった、分かったから。じゃあ行こうよ」 「はいせんせえ!」 「太っても」 「うるせえ!」  同じことを言って人の心をグサグサっと刺してえぐろうとしてくる口を両手でふさいでにらみつける。まったく、デリカシーってものがないよエリカは。いくら女の子どうしでもなんどもなんども言っていいことではありません。  急に口を押さえられてびっくりしたみたいで、からだをびくりとさせて目をおおきく開いて固まってしまった。へへへ、おどろかせて黙らせてやったぜ。
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