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まんぞくしたから解放してやろう。さあ、かばんを持ってコンビニに向かってれっつれっつごー。
ドアを開けて振りかえったら、エリカがまだ固まっていた。口元をおさえてる。もしかして、口内炎でもできてたのかな。それを押しちゃった? まさかつぶしちゃった?
「エリカ? え、だいじょぶ? 口内炎?」
「ああ、えっと、大丈夫」
「エリカにも口内炎とかできるんだね」
「私を何だと思ってるんだ」
「ニキビとかそういうのとは無縁の存在」
「私だって出来るよ出来物。痛いの嫌だから頑張ってるんだよ」
「へえ、偉いなあ、エリカは」
「それはどうも。さ、帰ろう」
「いざアイスを求めて!」
「はいはい」
あきれて笑ったエリカはそれでもそっと口元に手をもっていって、やっぱり痛いんじゃないのか心配になる。となりを歩きながらじっとようすを見てみたけど、すずしい顔してる。だいじょぶ、なのかな。
「何? 本当に大丈夫だって。口内炎とかでもない」
「ホントに?」
「ちょっと顎に衝撃がきたくらいだよ」
「それだいじょぶなの?」
「大丈夫にしてあげる」
「なにそれ」
「じゃあお詫びにアイスを奢る?」
「あ、それでいこう! それでちゃらね、ちゃらちゃらっちゃー」
「いや、別に本気で言ったわけじゃなくて」
「いいからいくよ! アイスはまってくれないよ!」
「買われるのを待ってると思うけれど」
下駄箱でくつをはきかえて、外にふみ出した。気付かなかったのが不思議なくらい、空が地面が車が木が、校舎だって真っ赤に染めあげられていた。影だけが異様なほど黒くてちょっとこわい。風がふいて木をゆらして影がうごめいているように見えて、葉っぱのこすれる音がおおぜいの人がひそひそ話をしているみたいだ。だけどそのこわささえも、この赤い世界を彩るための、より幻想的魅力をひきたてるための一因のように感じる。
わたし、ちがう世界にきてしまったのかしら。それとも、これから?
目のまえの光景に動けなくなってしまって、といってもべつに異世界につれていかれそうでこわいとか影が襲いかかってくるかもとかそんなメルヘンチックな理由ではなくて、単純に、その美しさに自分が入ることができそうにないなと思っただけ。わたしでは見劣りしちゃうもの。
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