第1章

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 わたしが立ち止まっていることに気づかないで、エリカがその中に入っていく。足音がしないことに気がついたのかふり返って、わたしと目があった瞬間、やっぱりこういうのはエリカがにあうよねって思って、このとき、この景色を見ているのがわたしだけだということが、なんだかとても誇らしいっていうか、うれしいっていうか、誰かに自慢したいようでいて、自分だけのものとして刻みつけていようって思ったり、よくわかんないきもち。だけど悪いきもちじゃない。だって、笑っちゃってる。 「どうしたの?」 「うーん、わかんない」 「何さ、それ」 「だってわかんないんだもーん。へへへ」 「まあ、いいけど。ほら、行こう」 「ぐっ! 足がっ! 動かない! だっこもしくはおんぶー」 「嫌だよ、ただでさえ暑いんだから」 「じゃあ手ぇひっぱってー」 「……もう、馬鹿な事やってないで。アイス食べるんでしょ」 「食べるー」 「じゃあほら、おいで」  なんだかんだ言っておいて、こうやって私の腕をつかんでひっぱってくれちゃったりするエリカが、わたしはきらいじゃない。  ひっぱられながら、歩きながら、わたしはさっきの夕焼けのなかのエリカを思い出す。しっかり心のキャメラでシャッターを切っておいた。ああいいなあ。ほんと、絵になるっていうか、モデルとかやればいいのに。そういうの嫌いなの、知ってるけどさ。  にやにやと頭のなかでその写真を眺めていたら、どうしてかだんだんと、なにか得体の知れない不安がにじみだしてきて、胸が苦しくなる。どうしてこんなきもちになるんだろう。この景色のノスタルジーな感じに、当てられたのかな。沈んでいく太陽の赤い陽射しにはこういう、ええと、せきりょうかん? みたいなきもちにさせる作用が実はあったりして。おお、のすたるずぃ?。  本当の写真だったら、その写真をずっと見ていればわかったのかもしれない。だけど残念わたしの頭のなかのキャメラはスーパーロースペックなのさ。どんどん微妙に改変されていくのだ。  だけどほんとに、なんなんだろう。もやもやするなあ。  まあ、アイス食べたら忘れるっしょ。アイスアイスー。 「走っていこうか!」 「嫌。ただでさえ汗かいているんだから」 「あとは帰るだけなんだし今さらだよ! コンビニ涼しいし!」 「いや、そういう問題じゃ」 「よっしゃれっつれっつごー!」 「わ、ちょ、ちょっと!」
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