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射程に分があるのは向こうだ。なら自分に出来ることはボクシングで鍛えた動体視力を駆使して、隙を突くしかない。
がーー予想していた戦闘にはならなかった。鴉間颯は今まで大事に持っていた刀をこちらへと放り投げた。
「……それ、いらないからアゲルネ?」
急に右目が熱くなるのを感じた。何かが奥に突き刺さる感触も。
蓼傍は突き刺さった刀を抜こうとするが、鴉間颯は当然待ってくれない。半分になった視界に映るのは、笑顔で跳ぶ悪魔の姿だった。
鈍い音と共に刀が頭部を貫通する。本来なら即死なものだが、左目の視界はぼんやりとだがまだ機能していた。
脳を貫かれた今、自分の死は確実だろう。だが、目の前にある巨悪にせめて一矢報いなければ、死んでも死にきれない。
冷えた鉄のように体が硬くなっていく。蓼傍は、握り締めていた右拳を鴉間颯の顔面へとぶつけた。
蓼傍はそれに満足すると、体を前のめりに倒した。
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