第1章

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 そしてその日の仕事を終え帰宅していた時のことです。  またあの交差点に差し掛かり信号待ちをしていると、横断歩道の向こう側にあのおばあさんの姿が見えました。薄暗くなっていましたが、よく見ると今朝と全く同じ状況だということがわかりました。  またか…困ったな…、正直そう思いました。  信号が変わり急いでおばあさんに掛け寄ると、やはりボソボソと呟いているようでした。辺りをよく見渡しても職員の姿はありません。  そしてもう一度私がおばあさんに視線を戻すと、今朝から一度も私に視線を向けなかったおばあさんが私を凝視し、強張った顔で震えだしたのです。  異様な状況に私の中で徐々に恐怖が大きくなっていくのを感じました。  ですが何か声を掛けなくてと思いました。 「大丈夫ですか…?」  そう言いながらおばあさんの肩に手を伸ばそうとした時でした。 「来るなーーー!!!」  おばあさんは見た目からは想像もできない程大きな声で私にそう叫び、尻餅をつき後退りしはじめました。  あまりの状況に私の体は硬直してしまいました。  とその時です。  何者かがとても大きな力で横から私を押したのです。その拍子に私は赤信号の横断歩道へ投げ出されてしまいました。  何が起きたのかわからぬまま急いで押された方に視線を戻すと、そこには一人の青年が立っていました。ただ、その青年がすでにこの世の者ではないということは、霊感など微塵もない私にもすぐに理解することができました。  破れたジーンズに血に染まった白いTシャツ、そして血の気のない青白い顔。恐らくこの交差点で事故に遭い亡くなった青年なのだと思いました。  青年は恐怖で動けなくなっている私を見つめ、ニヤリと笑いました。  その直後です。  キィィィーーーーーーッ!!!!  とても大きく甲高い車のブレーキ音が私に近付いてくるのがわかりました。
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