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システムエンジニア。
この仕事を、十何年とやってきた。
納期ギリギリでの理不尽なクライアントからの要望や、上司の無茶振りをいなす術をどれだけ身につけても、寄る年波には勝てない。
30代前半は、この業界ではすでに老齢だ。
最近、疲労の蓄積を否応無く感じている。
0時過ぎのタクシーでの帰宅も、ビジネスホテルへの連泊も、会社持ちの場合はまだ同情されない。
自腹でこれが何日か続いてやっと『ああ、大変ですね。』となるのが当たり前。
今日の帰宅だって、たまにはゆっくり風呂にでも浸かって人間らしい生活がしたいと、半ば無理矢理に仕事を片付けてきたのだ。
このままの生活を続けるつもりなら、結婚はおろか彼女すら見込めないだろう。
俺をこの世界に必死に食らいつかせてきたのは、小さな箱から生み出されるものへの尽きる事無き興味と、渇望だけだった。
そろそろ真剣に転職を考える時期が来たのか、などと考えながらなんとなしに視線を巡らせると、隣室から漏れる光に気がついた。
「あれ? いつの間に……」
隣室は少なくとも俺が越してきてからはずっと空室だったハズだ。
……が、3日も不在にしていたのだ。知らぬ間に入居していてもおかしくはなかった。
「……」
視線をやったのは一瞬で。
俺は自宅のドアに鍵を差し入れると雪崩れ込むようにして 部屋へ入り、本来の目的である風呂も忘れてすぐにベッドへダイブした。
何年かぶりの隣人の出現も、疲労がピークに達した俺にはさしたる問題では無かった訳だ。
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