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居ても経ってもいられなくて、コートを掴んで、あの日の場所へと走った。
黒沢さんに会ったあの場所。
彼を探すように、フラフラと歩いた。
街はネオンが輝く。
空はもう真っ暗なのに、たくさんの光が交り、行き交う人々の顔も見放題だ。
スーツのサラリーマンに視線を向けるが、その中に黒沢さんの姿を見つける事はできない。
煙草の臭いと香水の匂いに惹かれて、振り向いて見ても、そこに居るのは全く見知らぬ人。
素面なのに、眉が下がり、涙がこみ上げてきてしまいそうだ。
あの大きな筋張った武骨な手で、涙を拭ってほしい。
広い胸に顔を埋めて、香水と煙草と体臭が交った彼の匂いの中に溶け込んでしまいたい。
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