第1話 太郎、異世界で変身ヒーローとなる

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第1話 太郎、異世界で変身ヒーローとなる

 「出やがったな、チュートリアルの戦闘員ども!」  短い黒髪、そこそこ良い顔にそこそこ鍛えられた黒学ランの高校生の少年が叫ぶ。  「チュチュー! 何だ? 一般人が、我ら秘密結社チュートリアルに挑むのか♪」  駅前の放置自転車を凶器に周辺を荒らす顔面にCの字が描かれた全身黒タイツの戦闘員達、その一人が自分達の前に現れた少年を見て笑う。  「おう、ヒーロー候補の高校生様が相手になってやる!」  少年は戦闘員達を前にして闘志をむき出しにすると、全身から炎のような赤いオーラを放出させる。  「げげ! こいつはもしやアイテム無しの太郎か!」    戦闘員の一人が少年、太郎を見て叫ぶ。  「何だと? あの、変身アイテムがまだなくて変身できない太郎か!」  別の戦闘員が叫ぶ、その一言が太郎の地雷を踏む!  そして、NGワードを言われた太郎は怒りで体から出るオーラの勢いを強くした。  「上等だ、ヒーローが来る前に俺がお前らを全員ぶっ潰す! 異世界勇者のじっちゃん直伝、熱血張り手っ!」  太郎が素早く接近し燃えるオーラを纏った張り手で、戦闘員の一人をぶっ飛ばす。    「はごっ!」  太郎の技をもろに受けた戦闘員は一気に霧散化し消滅した。    「チキショー、仲間の仇だ!」  戦闘員が放置自転車を太郎へと投げる、投げつけられた自転車を太郎はガシっと、掴んで地上へと降ろした。  「放置自転車とはいえ、他人様の財産荒らしてんじゃねえぞ!」    太郎が自分に自転車を投げて来た戦闘員に突進する。  「馬鹿め、そいつは囮だ♪ 皆、囲んで棒で叩け~♪」  太郎が戦闘員の一人と相対する隙を突き、戦闘員達は虚空から棒を取り出して太郎を取り囲み一斉に棒を振り下ろす。  「ぐはっ! くそ、お前ら戦闘員のチャチな攻撃なんかに負けるかよ!」  感情のオーラをバリヤーにして耐える太郎、一瞬敵の攻撃が止んだ隙に立ち上がる。  「かかったな♪ 防御のオーラが解けてるぜ♪」  戦闘員が棒をバットのように振り、太郎の胴を打つ。    「ぐはっ!」  そして再び、戦闘員の殴打攻撃にさらされる太郎。  「止めなさい、ビューティーホイップ!」  突如どこからか響いた美少女の声と共に、光の鞭が戦闘員達を薙ぎ払う。    「げげっ、生徒会長かよ!」  戦闘員から救われた太郎の目の前に立っていたのは、ピンクのエプロンドレスに赤い仮面に青いベレー帽と言う服装の金髪ツインテールの魔法少女だった。  「……はあ、私も嫌われた者だな桃園太郎(ももぞの・たろう)君?」    生徒会長、魔法少女ビューティーテールは瞳を閉じてため息を吐く。    「……ありがとうございます、けど悔しいです」   礼を言いつつ正直に言う太郎。    「……は~~~っ! 君は本当に、困った奴だなあ? 実力はあるのだから、しかるべき変身アイテムを手に入れてから挑みたまえと何度も言っているだろう?」    呆れつつ、太郎を諭しにかかるビューティーテール。  「俺だって、早く手に入れたいっすよ! けど、目の前で事件が起きれば変身できなくても放っておくわけにはいかねえぜ!」  太郎が言い返すが、彼の体にシュルッとビューティーテールの鞭が絡みつく。  「……その正義感は認める、ただし生徒会長として昼休みを過ぎても学校に戻らず騒ぎを起こす生徒は学校に強制連行する!」  ビューティーテールは容赦なく言い放つ。  「げ? マジかよ、俺まだ昼飯食ってないのに!」  太郎はビューティーテールにより、学校へとドナドナされて行った。    「ほら、私が作ったおにぎりだお食べなさい♪」  黒髪ツインテールに白セーラー服の美少女に戻った生徒会長、垣花小春(かきはな・こはる)が太郎にでかいおにぎりを差し出す。  長机と椅子だけの簡素な会議室、太郎は垣花会長に連行されお説教刑を受けていた。  「うっす、いただきます」  昼飯を食っていないのでありがたくいただく太郎。  「ペットボトルだがお茶もやろう、良いか桃園君? 君はまだ一年生だぞ?」  太郎にお茶も差し出してくれる会長と食いながら話を聞く太郎。  「君は力も意気もある、だが功を焦るな? 怪人がいた場合はどうする?」    「それでも戦います、会長みたいに変身はできないっすけどね?」  「嫌味を言って悪ぶるな、君は問題児だが私は君を買っている♪」    太郎の言葉も堂々と迎え撃つ会長。  「……くっ、絶対変身できるようになってあんたを越えてやる!」    会長に闘志を燃やす太郎、彼は変身できて活躍してる会長が羨ましかった。    「その意気だ、私は君ならできると信じている♪」  だが、そんな太郎の心中を知ってか知らずか会長は菩薩の如く太郎に微笑んだ。  太郎はその笑みに魅力を感じつつも、やはり彼女に負けた感じがして悔しかった。  そんな会長のお説教から解放された太郎は下校し、太郎は帰宅した。    その夜、太郎は夢の中で二人の人物に出会った。    「おう、元気か太郎♪」  一人は太郎と似た風貌の着流し姿の美青年。    「太郎ちゃん、久しぶり~♪」  もう一人は、天女の羽衣付きの割烹着の付いた緑色の着物を着た褐色におかっぱ頭の美女と言うわけのわからない二人組であった。  「……まさか、じっちゃんと祖母ちゃんか? 夢枕かよ、やべえな!」    若い頃の祖父と、写真で見た事がある祖母に驚く太郎。    「おう、お前を鍛えたじっちゃんだ♪」    太郎の祖父が力こぶを作る。    「は~い♪ 異世界の女でお祖母ちゃんの、ヤチヨで~す♪」    祖父に抱き着く女神を自称する祖母、太郎はその様子を呆然と眺めていた。    「まあ、俺達の夫婦漫才は置いといてだ♪ 太郎、お前にも時が来た」    明るい笑顔から真面目な顔に変わる祖父。    「太郎ちゃんに、おばあちゃん達からプレゼントがありま~す♪」    祖母のヤチヨは明るいテンションだった。    「……俺にプレゼント、時が来た? ってまさか!」  祖父母の言葉に思い至る太郎。    「おう、元気に育ったお前に俺の後を継いでもらいたくてな変身アイテムだ♪」    祖父が微笑む、その笑みに太郎はついに自分も変身できるのかと期待する。    「私が丹精込めて作った神器ですよ~♪」  ヤチヨが胸を張る、そして太郎の手には金色の謎物質でできたゴツイ瓢箪(ひょうたん)のようなラインの軍配団扇(ぐんばいうちわ)型のガジェットであった。  「……こ、これが俺の変身アイテム? 何かでかいラケットみたいなって、これは武将とかが振るう軍配(ぐんばい)か!」  太郎がまじまじとガジェットを見て驚きつつも理解する。    「おう、相撲の行司も使う軍配だ♪」    祖父が太郎のリアクションを見て笑いながら答える。    「その名も、シフトチェンジャーでっす♪ 打撃も斬撃もできる武器よ♪」  ヤチヨが誇らしげにガジェットの名を叫ぶ。    「和風なガジェットで何か良いな♪ じっちゃん、ばっちゃん、ありがとう♪」    喜び祖父母に礼を言う太郎。  「喜んでもらえて何よりだ、けどそれを持つ意味は分かるよな?」    祖父が真面目な顔で太郎に問いかける。    「ああ、これを使って変身して戦う相手がいるんだろ」  太郎が答えると祖父が頷く。    「実は、旦那様が救った私の世界オーガシマに新たな脅威が迫ってるの」    ヤチヨが語る。    「そっか、それで俺がじっちゃんの後を継ぐって事かわかったぜ♪」    太郎は皆まで聞かず承諾した。  「……おいおい、そう言う所も俺に似て即決だな」    祖父がたじろぐ。  「良いじゃないですか、素敵な子に育ちました♪ 現地でのサポートや、地球での手続きは任せてね♪ 他の仲間を作る神器とかは、現地で受け取ってね♪」    ヤチヨがあれこれ早口で言ってから、胸を叩いてドヤ顔をする。  「まあ、あれだ? 俺は地球で言う戦隊をあっちでやっていてな♪ ちなみにあっちでは、地球の変身ヒーローを変身勇者(ブレイブシフター)って言われてる」    事は決まったようなので、祖父は豆知識的な事だけを言う。    「そっか、なら俺も行った先で戦隊を作るぜ♪」  素直に聞く太郎、何よりも彼は自分がついに変身できる事の方が嬉しかった。    「ああ♪ 旦那様に似て素敵、流石は私達の孫♪」    「まあ、そう育てたからな♪ 息子達には悪い事をしたが」    孫馬鹿モードのヤチヨと少し落ち込む祖父。    「そう言えば、父さんは後継ぎに選ばなかったんだねじっちゃん?」    ヒーローや戦いがあまり好きではない、消防士の父親を思い出す太郎。  「あいつは、自分よりお前に力をやれってさ親父として申し訳ない」    「父さんが? じゃあ、事を為して戻ったら父さんにも礼を言うぜ♪」    太郎の決意に祖父母は涙した。    「それじゃあ、太郎ちゃんをオーガシマへ転移させますね? ゲートオープン!」    ヤチヨが叫ぶと、太郎の背後にブラックホールが発生して彼を吸い込んだ。    「ここがオーガシマか、昔話の日本みたいな世界だな?」  異世界オーガシマに、白いパーカーに赤いシャツに青いストレッチパンツに黄色いスニーカーとカラフルな姿で軍配型の変身アイテムを持って現れた太郎。  異世界に飛ばされた彼だが、着地は成功した。  太郎、異世界の大地に立つ!  彼が抱いたオーガシマの感想は、日本の昔話の挿絵と言った物だった。  見上げれば青空と山、周囲は林に舗装のない土の道。  これからどうしようかと太郎が考えていた所、林の方から声が聞こえてきた。    「だ、誰か助けて~~~~っ!」  「早速事件か? 行くぜ、ブレイブシフト!」  何故か頭に浮かんだ言葉を叫び、シフトチェンジャーを振る太郎。  すると、彼の姿は白を基調とし黄色の陣羽織を羽織ったヒーロースーツを身に纏っていた。  そのスーツのマスクはフルフェイス。  目の部分がピンクの桃型の複眼状のバイザーで、眉間には緑色の葉形のアンテナがVの字状に付いていた。    「とうっ!」    変身後、凄まじいジャンプで声の方へと向かう太郎。    「グマ~~~♪ 食いがいのあるオーガの娘っ子グマ~♪」    下卑た言葉を発するのは、二足歩行状態の熊の怪物だった。    「こ、来ないで下さいまし! く、熊鍋にいたしますわよ!」    泣きべそをかきながら、大木を背に薪を中段に構えるピンクの着物を着て頭頂部に小さい一本角を生やした赤鬼のような少女。    「熊鍋だ~? お前らオーガ達に食われてきた、同胞達の怨みをまずはお前を食って晴らしてやるグマ~~!」    赤鬼の少女の言葉に激昂する熊の怪物、少女のピンチと言う時!  そこに間に合う者がいた。    「そうはさせるか、吹き飛べっ!」    少女と怪物の間に空から割り込んだのは変身した太郎。  大上段に構えたシフトチェンジャーを振り下ろし、強烈な突風を巻き起こして熊の怪物を吹き飛ばした。    「グ、グマ~~~!」    同胞達の怨みを晴らす事が叶わず、いきなり現れた謎の存在に吹き飛ばされる熊の怪物は吹き飛ばされた先の木に頭を打って気絶した。    「追撃だ、グンバイブレード!」    変身した太郎が両手でシフトチェンジャーを握って回すと、ガジェットが軍配から刀に変形した。  そして、太郎は突進し気を失っていた熊の怪物をグンバイブレードを振るい一刀のもとに両断した。    「……あ、あなた様は一体どなたでございますか?」    窮地を切り抜けた赤鬼の少女が、突然現れた異形の救い主に名を尋ねる。    「名を尋ねたな? お前は運が良い♪ 俺の名はシロシフター! この世界で言う所の変身勇者(ブレイブシフター)だ!」    変身した太郎、改めシロシフターが名乗りを上げる。  今ここに、新たなヒーローの物語が始まった。  
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