たった一度の甘い囁き

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黒沢さんの顔を見るよりも早く。 腕を引っ張られて、広い胸板へと飛び込んだかと思えば、次の瞬間には唇を奪われていた。 目を閉じる暇も無いキスだったから、黒沢さんが後ろ手でドアを閉めるのが目に入った。 それを見届けた後、ゆっくりと目を閉じる。 鼻孔をくすぐる、いつもの爽やかな香水。 初めて会った時は、この香りで修一と似ていると思った。 だけど、もしも今、街中でこの香りを感じた時。 思い出すのは、間違いなく黒沢さんだ。 触れるだけの長いキス。 ゆっくりと離れて、数センチ前に広がるのは端正な黒沢さんの顔。 艶やかな黒髪から覗く、漆黒の瞳に吸い込まれてしまいそうで、魅入ってしまう。
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