口紅と孝行

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「記録係は、また俺がつとめることになったよ」 一日ぶりにガレが目を覚ますと、傍らで本をよんでいた三島がそう言って皮肉に笑んだ。 「蓮は?」 「記録係をおりるそうだ。あとは、プライバシーにかかわるから言えないな」 そう言って三島はまた皮肉に笑む。 「そう…」 ガレはそれ以上詮索しなかった。 多くの記憶を失っていたガレだったが、三島という男のことは、何となくわかっていた。 食えない男。 そんな言葉がぴったりな男だ。 「仕事が、入ったんでしょう?」 ガレがそう言って真剣な面持ちで三島をみやる。 「分かる?」 ガレの言葉の裏に、人の心配をするために見舞いにくるような男じゃないわよね、という問い掛けが隠れていることを知ってか知らずか、三島はそう言って胡散臭い笑みをうかべた。
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