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その時、背後から聞き慣れた声がした。
「僕の嫁に何をやっているんダッ! 警察を呼ぶゾッ!」
その幼い子供のような声がした方を見ると、進藤伊沙美の旦那が立っていた。
「あ゙な゙だぁ~」
しわがれたハスキーボイスを発しながら、旦那の元に駆け寄る進藤伊沙美(?)
「忘れ物を取りに来てヨカッタ。ゴメンよ、キミが襲われたのは僕のせいダ」
抱き合う二人を呆然と見つめながらおれは尋ねた。
「……あ、あのぅ……。その、声……?」
旦那はハッとした表情を浮かべ顔を伏せると、やがて口を開いた。
「バレてしまいましたか……。そうです。僕が本当の進藤伊沙美です。嫁だというのは僕が咄嗟についた嘘です。世間にこの事実を知られたくなかったので……」
旦那の言っている事が理解できず、呆然と立ち尽くすおれに、尚も旦那は語り続ける。
「今出しているこの声は無理に低い声を作って出していまして、本当の地声はアニメのキャラみたいな変わった声なんです。ああ、もう無理に声を作る必要はありまセンネ」
旦那の口から発せられるその声は、紛れも無く、おれの嫁の声。
…………パプリンタンが……男…………お、と、こ……?
そんな……そんなそんなそんなそんなそんな!?
雷に打たれたような衝撃が全身に走り、おれはその場に四つん這いになりうなだれた。
「あの、大丈夫でスカ?」
まるで天使が優しく囁いているような声に、おれはゆっくり立ち上がると、半泣き半笑いの表情を浮かべ言った。
「へ、へへ……もう、この際、男でもいいです……。どうかおれだけの、パプリンタンになってくだしゃぁ~~い!」
次の日、隣が空き部屋になっていたのは言うまでもない。
<完>
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