声に恋した男

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 次の日の朝、おれは玄関の前で隣から誰か出て来るのを待った。  すると冴えない旦那が出てきたので、おれはすかさず声を掛けた。 「おはようございます。これからお仕事ですか?」 「あ、お隣りの……えっと」 「浮田(うきた)です」 「浮田さん。おはようございます。ええ仕事ですが、何かご用でしたか?」  おれは「歩きながら少しお話しましょう」と誘い、旦那もそれに了承した。  アパートを出て10メートルも歩かない内に、おれは切り出した。 「お宅も、好きなんですか? アニメ」  旦那は一瞬驚いたような表情をこちらに向けると、再び正面を向いてたどたどしく答えた。 「あ、アニメですか。はい、まあ、そうですね」 「特に進藤伊沙美が演じている作品とか、お好きですか?」  旦那の表情が固まる。 「いやね、実は昨日、お宅の部屋から声優の進藤伊沙美の声が聞こえてきましてな。昨日はなんの作品を観ていたのか気になったもので」  旦那は突然立ち止まると、しばらく思い詰めた表情を浮かべ、やがてへの字に結んでいた口を開いた。 「……あの、内緒にしてくれますか?」  やはり嫁には隠れて視聴していたのかと思いとりあえず頷くと、旦那はおれの耳元に口を近付けた。
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