声に恋した男

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「実はその……進藤伊沙美なんです」 「…………は?」 「実は、僕の嫁は、その、声優の進藤伊沙美なんです」  フリーズする事、約5秒。 「ぬわっ! ぬわんですとおおおおおお!?」  おれは近所に響き渡るくらい絶叫した。  あの地味な女が、進藤伊沙美!?  じゃあこの男……進藤伊沙美の……パプリンタンの旦那だと言うのか!? 「どうかこの事は内密にお願いします。僕と同棲している事も世間に隠しているんです。なんせ彼女は人気声優ですので」  おれの部屋の隣に、進藤伊沙美が……パプリンタンが住んでいる……。  パプリンタンの……パプリンタンの声が聞きたいいいいいっ……!  我を忘れたおれは、旦那にすがり寄り懇願した。 「お、お願いします! 一度伊沙美さんに会わせて下さい! おれ、大大大大大ファンなんです!」 「む、無理ですよ。彼女は極度の人見知りなんです。会ったところで何も話さないと思います」 「しかし彼女は声優でしょう!? 人と会話もできない人見知りが声優をやっているんですか!?」 「いやその、ほら、声優は画面に向かって台詞を読むだけじゃないですか。だから直接人と話すわけじゃないので何とかできるそうなんです」  台詞……。そうか。なるほど。それなら--  閃いたおれはすぐにアパートの自室に戻り、パソコンを立ち上げ、滅多に使わないワードを開いた。  そして溢れる妄想力を爆発させ、一気に文字を打ち込んでいった。  大学は当然サボった。
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