声に恋した男

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 旦那が仕事から戻ったのを見計らい、再びおれは旦那に声を掛けた。 「平畑さん! 恥を忍んでお願いします! どうかこの台詞を伊沙美さんに読んでもらえませんか!?」  おれからぶ厚い原稿用紙を差し出され、旦那は困惑した表情を浮かべた。 「あの、浮田さん。こういう事はお断りさせて貰っていまして……」 「面と向かってじゃなく、壁を隔てて言って頂けても結構です! 何でしたらお金も払います! どうかこの通り! 一生のお願いです! パプリンタンはおれの、夢なんですうううっ!」  おれの全身全霊を込めた渾身の土下座を見て、ついに旦那はこう言った。 「……わかりました。しかし、これっきりでお願いしますよ」  旦那から了承を得たおれは、興奮冷めあらぬまま部屋に戻るとすぐにフィギュアを飾っていた棚を移動させ、現れた壁にパプリンタンのポスターを張りつけた。  ボイスレコーダーの準備もOK。後は約束の7時まで待機だ。  そして、その時は来た。
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