声に恋した男

8/11
前へ
/11ページ
次へ
「……そうしクン、聞こえるカナ?」 「!」  ポスターの向こうから名を呼ばれ、思わず返事をしそうになった。が、我慢だ。おれの声でパプリンタンの声を消したくはない。 「いつも、私のコトを見ててくれてアリガト。そうしクン、大好きダヨッ」 「!!!」  おれは感動と興奮に打ち奮え、溜まらずポスターのパプリンタンに口づけをした。  それからパプリンタンは、おれへの想いを実に原稿用紙30枚分喋ってくれた。  時にはアドリブを交え、時には聞いた事の無い甘い声で囁いてくれた。  おれは天にも登る心地で壁の向こうに耳を傾き続けた。 「ふぁ〜あ。そろそろ眠くなっちゃっタ。オヤスミ、そうしクン。パプリンはいつでもそうしクンと一緒ダヨッ」  最後の台詞を読み終え、何も聞こえなくなったのを見計らい、おれはレコーダーのスイッチを切った。  ありがとう……ありがとうパプリン……。おれもう、死んでもいい……。  ……いや、まだ死にたくない。毎日この声を聴いて生きていたい。  それからというもの、おれは毎日レコーダーを通してパプリンタンとの会話を楽しんだ。  誰も知らない、おれに向けられたおれだけの声。その魅惑のボイスを聴く度に、パプリンタンへの想いが募っていく。  ああ……もっと、パプリンタンの生ボイスが聞きたい……。  あの冴えない旦那は、毎日おれの知らないパプリンタンと直接喋ってるのか……。くそう、許せん。  そうだ、おれの方がパプリンタンが好きなんだ。あんな男のモノにしてたまるか。  パプリンタンは、おれのモノだ……!
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加