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一行は、先の部屋へと進んだ。階段を昇った。まっすぐに続く、長く、細い階段だった。
「あれ、明るくない?」
クレオは言った。前方が、かなり明るいようである。マルクスの持つ、松明の火が消えた。階段を登り切ると、
「おいおい! なんだこれ?!」
紅葉は仰天した。
『ここは、宝物殿だ』
海賊の話に出てくるように、金銀財宝の山、というものではなく、キレイに整理整頓されたものである。壁に棚が張り巡らされていて、その上には、黄金色に光る銅像などが多数ある。そこから少しはなれた四隅に、石像がある。
『その石像4体は、ミケランジェロの作だ。完成したあと、すぐにここへ転移したのだ』
「盗んできたのか」
紅葉はスフィンクスのミニチュアに問いかけた。
『左様。できがよかったのだ。他意はない』
みんな、無言になった。
「スフィンクス、泥棒しちゃダメだよ」
クレオが目尻を下げていった。怒ってはいないようだ。
『あ、あまりにも姫様に似ておったのでつい…』
みんなは呆れた。紅葉は叫んだ。
「これって、真作なのか! しかも、ミケランジェロは、クレオパトラ像は作ってなかったはずだ!」
『彼の、最後の作だ』
「ああ、クレオパトラと思われるデッサン画は知ってるよ」
『彼は、創作で、クレオに近いものを作り上げていたのだ。我が見逃すはずはないだろう』
「ああ、そうだろうよ。クレオにそっくりだ。驚いちまったな」
『金貨を100枚ほどおいてきた。彼は金貨を打ち捨てた。すまぬことをした』
「その時のスフィンクスは、もうかなりの力があったんだな」
『我が作られて、一千五百年ほど経っておったからな。ほとんど今と変わらぬ』
紅葉は考えた。ミケランジェロとミケ、それがクレオパトラの生まれ変わり、偶然なのか。その答えのようなものが、スフィンクスの口から漏れた。
『紅葉よ、お主、クレオにミケランジェロから取った、『ミケ』という名を付けたそうだが、必然ではないのだろう。しかし、偶然でもない気が、我はするのだ。この件に関しては、我は一切関知も関与もしなかったことだ』
「そうかもな。ミケがクレオパトラなんて、考えもしなかった。可愛い子猫だったからな」
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