始まりの出来事

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肉体がダメなら服ならどうだ。 私は彼女にやろうと思ったが右の男性をいじることにした。 彼はボタン式のジャケットを着ていたのでボタンを外そうと手を伸ばす。硬く冷たかった。全く動かない。 夏でクーラーが入っていたはずの教室なのにその風さえもない。 私は急に孤独感に襲われた。 なんとなくここを出ることを考えてみる。 両サイドに固まった人がいては出ることが出来ない。とにかく私は立ち上がろうとしたが……。 「何だ?」 いつもなら椅子は少し立つだけで前に倒れ込むはずなのに今は椅子の石像のように固まっていた。そのせいで立った際にひざ裏に直撃し私は座らされた。 しばらく悩んだ後、男性の方を向き左足を地面に付け右足を机に上げて両腕を机に付ける。そして左足も机に上げて立つことに成功した。 ひとまずドアの方へ歩く。 しかしドアの前で問題が発生した。ドアが開いてない。 私は時計の針を見てみる。いつの間にか五分過ぎていた。止まっているのに微かに動いている。 私はある仮定をした。もし時が止まっているのが微かに動いているならその時と共に物も動かせるのではないか。 仮説の後は実証である。私はドアを軽く押してしばらく待つ。強い力でドアに引っ張られる。 私の仮説は正しかった。隙間はできても出ることはできない。だから同様にドアを押すことにした。また引っ張られた。それの繰り返しだ。 私は時計の針を見る。 さっきと同様に五分針が動いていた。ドアの外は教室の中と同じように何も音がしていない。 エスカレーターが動く音。人が教室の前で戯れている音。存在はあるのに音が聞こえない。しかし私の心臓の鼓動の音や歩く音は聞こえる。 私は長い灰色の床の廊下を歩き時間をかけてこの建物を出た。私はこの建物だけに何らかの時間変化があるのだと思ったのだ。 しかし現実はそう甘くなかったのだ。 この建物の外の人々も止まっていたのだ。まるで歩く姿をした石像が何個かあるのを私一人だけが美術館で鑑賞しているかのようだった。この鑑賞は大学の外を出ても同じことだった。 さらに私は大学を出てアクシデントに見舞われた。それは大学まで電車通学なので時間が止まったこの状況では帰るのに困難である。バスも一応あるが同じことである。 私はしばらく考えた後、心に決心した。自分の足で歩いて帰ろう、と。
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