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「昔、パパもこの辺に連れてきてくれたしね」
パパ、の部分が乾いた空気の中では妙に飛び出て聞こえる。
携帯電話で話す声は、本人が意識している以上に大きくなるものなのだろうか。
立ち止まって眺めている私の背後を車がまた一台走り抜けていく。
「丘の上で肩車してくれた」
自分の声が大き過ぎると感付いたのか、男は打って変わって落とした調子で語った。
その肩に、新たに飛んできた蜻蛉がそっと止まる。
空を切る時は透き通って見えた翅が、白いシャツの上では黒いレースじみて映った。
真っ白なはずの布地にも淡い水色の影が落ちる。
どちらが本来の色なのだろうか。
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