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「向日葵畑の向こうに真っ青な海が見えたから覚えてる」
すっと風に溶け込むようにして、蜻蛉は彼の肩を離れた。
飛び去る瞬間、透明な翅がきらりと陽の光を返す。
「あんまり一緒にいられなかったからさ」
そこで初めて気付いたらしく、男は浅黒い中高の横顔を見せて、寂しく微笑んだ目で遠ざかっていく一匹を追った。
小さなレース作りの飛行機のような虫が私のすぐ手前を通り抜けていく。
細めていた黒の瞳が潤んだ光はそのままに大きく見開かれた。
「だからこそ、余計に覚えてるんだよ」
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