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携帯電話を右耳に当てたまま、彼が向き直る。
正面から臨むと、太く長い頸が際立って、やや威圧的なまでに大きく見えた。
父親と歩いてきた小さな女の子がすれ違いざま目を奪われた風にこの白シャツの男に見入る。
パパに手を引かれながら、まるで絵本の王子様でも眺めるかのように幼い顔を振り向けたまま、帰っていく。
「じゃあね、ママ」
変わらず人懐こい語調で告げながら、黒曜石じみた円らな目は、どこか挑むようにこちらを捉えている。
素知らぬ体で通り過ぎるにはもう遅過ぎた。
サーッと背後で自動車がまた一台走り去る。
車の駆け抜ける音は鋭い刃で紙を切り裂く音に似ていると思う。
「また、後で掛けるよ」
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