第一章:琥珀の中の虫

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「ほら、スーパーの駐車場の入り口から車道に出てすぐの所」 説明しながら、パパの灰色の瞳から再び自分の手元に落とす。 トン、トン、トン、トン……。 俎板の上がたちまち切り刻まれた欠片と滲み出た汁で真っ赤になった。 「ああ」 カタ、カタ、カタ、カタ……。 パパの合点した声にパソコンのキーを叩く音が続く。 私の遠回りして帰るのが遅れた原因は、もう追求すべき事項ではなくなったらしい。 「あそこは見通しが悪いからな」 プラスチックのキーを叩く音に混じって、半ば独り言のような呟きが届いた。 カタ、カタ、カタ、カタ……。 トン、トン、トン、トン……。 近頃の私たちは言葉を交わすより、こんな風に互いの作業する音を聞き合う時間の方が長い。
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