第一章:琥珀の中の虫

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「似た人に逢ったの」 ――ギタ! アルバムの写真で笑っていた男の子そっくりな、大きな黒い目に太い眉、真っ直ぐな黒い髪を持つ男は、車窓から半ば身を乗り出すようにしてそう叫んだ。 買い物籠を提げ、歩道を一人帰っていく私に向かって、だ。 「もう彼も三十歳くらいでしょ」 田舎町にはやや不似合いな高級車に乗り、日に焼けた浅黒い肌に仕立ての良い白いシャツを着ていたが、あの男は、しかし、年齢としてはまだ三十前といったところだった。 ギタも生きていれば、今年二十九歳なのだから、幼馴染のディーノもそのくらいのはずだ。 私は二十二歳の彼女の姿を借りているけれど。 ――待ってくれ! 悲鳴じみた叫び声から極力離れた場所に行こうとして、結果として必要以上に遠回りになった。
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