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隣のアパートに誰か引っ越してきたようだな。
荷物が運び込まれている。
こいつも儂の所に挨拶に来んのか?
最近の若い奴らは、引っ越しして来ても、挨拶の一ツもして来ない。
アパートと反対側のマンションの奴らも、去年向かいに建てられた新築アパートの奴らも、誰1人儂の所に挨拶に来なかった。
引っ越しの挨拶だけでなく、毎朝通勤通学で儂を見かけても、会釈すらしない。
それどころか、こいつらはお互い同士も挨拶せん。
昔は違った。
区画整理される前、狭い路地の両脇に、肩を寄せ合うように小さな家がひしめき、隣近所に住んでいる者は皆顔見知り。
貧乏人が多かったが、顔を合わせれば挨拶を行う。
大人だけでなく、子供らも互いに元気な声で、挨拶していたものさ。
彼らは、儂を残しみんな引っ越しして行ってしまった。
それでも彼らは、近くに来たからと言って、儂の所にたまに立ち寄ってくれる。
儂も意地をはってここに残らず。
みんなと一緒に移転すれば良かったのかも知れん。
隣のアパートに荷物を運び込んでいた運送屋が帰って行く。
引っ越しして来た若者は、今時の若い者にしては珍しく、アパートの他の住人に挨拶回りをしておるわ。
挨拶回りを終え、自室に戻ろうとした若者が、儂に気が付いたようだ。
若者は儂に会釈すると、儂の前に茶菓子らしい包みを置き、手を合わせ拝み挨拶をして来る。
「何の神様か知りませんが、これから宜しくお願いします」
「うんうん」
最初建てられた時は呪い塚だったが、時代が下るにつれ、この地域の守り神と祀られてきた儂が、全力でお前をバックアップするぞ。
それにしてもこの茶菓子、美味いな。
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