竜の宝玉

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   竜が天に願ったのは、雨の降る日の事だった。大空から地上を眺めれば、万華鏡のように色とりどりに花開く傘が美しかったのだ。竜はその時、強く願った。自らも、あの景色を彩る宝玉の一つになりたいと。  人の世界がどれほど細々としているか、全く知らないままに。 「トカゲの亜人とは、姉さん珍しいねぇ。この辺りは猫族が占めてるから気を付けなよ。食われちまうよ」  宿屋に泊まるたび、珍しいと言われるのにはもう慣れていた。すらりと伸びた足、惜しげもなく晒した豊かな胸、ビキニ型のアーマーがよく似合う精悍な彼女の左半身は鱗で覆われており、下半身からは蛇のような尻尾が地面まで垂れている。背負うのは、女にはとても扱えそうにない大剣。彼女はヒューマンの店主に冷たい視線だけ返すと、部屋へ向かった。  人とすれ違うたび、視線を向けられるのも日常茶飯事だ。様々な『亜人』が行き交う町でも、彼女のように爬虫類型の亜人は少ない。この町は先ほど店主が話した通り、猫型の亜人が多いようだった。  
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