第二章

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「こ、これはッ! 一体どういうことだッ!!」  決戦を数日後に控えた、ある日。  勇者が扉を開け放った先で見たのは、床に倒れ伏した魔王の姿だった。 「魔王が――死んだ!?」  突然の事態に、勇者は思わず叫んだ。勇者は敵情視察だの魔力の暴走を抑えるだのと適当な名目をとりつけて、二、三日おきには魔王の部屋に出入りしているのだ。つい先日会ったときには何ら変わりなかったはずだった。 「侮るな、勇者よ……この魔王、が……そう簡単に、死にはせん……!」  勇者の声に反応して、魔王の指先がぴくりと動いた。確かに死んではいないが、今にも死にそうな様子である。元より血色の悪いものが、さらに顔面に青味を増していた。 「何があった、魔王!」 「クッ。この魔王……一生の……不覚」 「!? まさか他の勇者が――」  勇者の表情がこわばる。魔王は内腑を吐き出すかのように、なかばうわ言のように、苦々しくその口を開いた。 「我とも……あろうものが……空腹で、倒れ、る、など、と……」  魔王は、腹を空かせて動けなくなっていたのである。 「く、空腹――!」  貧乏暮らしの勇者にも飢餓の苦しみには覚えがあった。こうしている間にも、魔王の体力がなくなっていくのが分かる。 「新た……な、……の調合……寝、食、も、忘れ……」  息も絶え絶えの魔王。このまま放っておけば戦わずして勝利が見える。だが、しかし。 「くそッ!!」  勇者は一瞬の迷いを振り切るとアパートの階段を駆け下り、一心に何処かへと駆けていった。ややあって再び戻ってきた勇者の手には、なんと食料が握られているではないか。 「さあ魔王、これを食え。ポーションで炊き込んだおにぎりと、野菜の代わりにやくそうを挟み込んだサンドイッチだ」 「ならぬ……勇者、に……施し、な、ど……ごふっ!?」  魔王は頑なに食べるのを拒もうとしていたが、勇者は無理やり彼の口の中に食料をねじ込んだ。実際のところ空腹に耐えかねていた魔王はそれを吐き出すこともせず、やがてみるみるうちに活力を取り戻した。 「く……何たる屈辱、貴様、なぜ我に施しなど――!!」  取り戻した刹那に体裁を整え、食って掛かる魔王。
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