第三章

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 ついに迎えた、運命の日。 「それでは、ここに第五十九回村民運動会を開会いたします!」  誰とも知らぬ村民代表によって開会が宣言され、決戦の火蓋が落とされた。戦うは言わずと知れた勇者軍(白組)と魔王軍(赤組)である。団体戦が主ではあったが、直接対決の機会ともなれば両者ともより激しく火花を散らした。 「ぐうッ、一日の大半を玉座に腰かけて過ごし、足腰が衰えておるわ……!」 「ハーッハッハッハ! 速くはないが、炭鉱夫の体力をなめるなよ! 百メートル走はオレの勝ちだ!」 「アッ、空を飛ぶとは卑怯なり、魔王!」 「戯言を! 玉入れに空を飛んではいけないというルールはない!」 「動かぬ……動かぬ! 拙い、下半身だけでなく上半身の筋力まで……おのれ勇者め!」 「小玉ならいざ知らず、大玉を転がす力さえないか、魔王よ!!」 「引け、力の限り綱を引くのだ! あらゆる勝利の栄光は我らの為にある! 我らに仇なす者たちを引き摺り倒さんが如く引けいッ!!」 「凄まじい一体感だ、さすがに王を名乗るだけあって人並み外れた統率力を発揮している!」  そうやって一日は瞬く間に過ぎ―― 「最終結果、発表! 今年の優勝は赤組です!」  運動会は魔王率いる――二人の中ではそういう設定になっている――赤組の勝利で終わった。 「オレもここまでか――ひと思いに殺すがいい、魔王」 「クク、断る」  項垂れ、吐き捨てる勇者に、しかし魔王はそうはしなかった。 「そのまま、無様に負けた勇者として惨めな伝説の生き証人となるがいい」  魔王は、勇者に生き恥を晒せというのだ。  が、ここで終わる勇者ではなかった。 「――確かに今日は負けた。だがずっと負けたままでいると思うなよ。オレは勇者として、何度でも立ち上がってやる」 「望むところよ。その度に返り討ちにしてくれる」  勇者と魔王の戦いは、ここからなおも続いていったのである。
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