後日譚:アイのある生活

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セリさん…。 「どこか、お悪いんですか?」 そう言えばここ最近、何回か午前半休を取る時があった。午後からは何事もなかったように会社に戻って仕事を続けてるので、何だろうなぁと頭を捻りつつも、そう深刻なものとは捉えていなかったけど。あれはもしかして通院していたのか。 セリさんは軽い調子で平然と答えた。 「いや病気ではない。そういう心配はしなくていいよ。ただちょっとまとまって仕事に穴開けざるを得ないからさ。まぁ今のお前なら大体のことは任せて大丈夫だとは思うけど。心づもりだけしといて」 「いつですか、それ。来週?来月?」 「いや来年。年明けてから」 先っ! 「何でそんな先の予定なんですか」 何かの検査とかだったら、そんなに時間が経ってしまったら遅いでしょう。 セリさんはこっちを見もしない連絡事項伝達口調のままで続けた。 「ああ、出産だから」 …。 「今って産科激減してるんだよね。妊娠判明したらすぐ出産予約しないといけないんだよ。少子化なのに更に早いペースで病院も減ってるってことだよね。そんなんで日本の未来は大丈夫なんかね」 日本の未来のことは俺の関知する限りではないです。 「…今、何ヶ月ですか、セリさん」 「五ヶ月。安定期に入ったから」 俺は震える手でポケットからスマホを取り出した。 妊娠周期…、出産予定日。妊娠カレンダー。…受胎日。 俺はスマホを放り出して、怒濤の勢いでセリさんに迫った。 「お、俺の子ですよね。俺の子ですね、あの時の。…セリさん!」 「いや知らんし」 冷たい。 「…セリさん、予定日…」 何も言わずに母子手帳を放り投げてくる。もう一度スマホを拾い上げ、がたがた震える手で出産予定日から逆算。…いや、この日付け。 「やっぱり俺の子じゃないですか!何で今まで何も言ってくれないんですかあぁぁぁ!」 「うるさいなぁ。仕事中だって」 仕事中にこんな話する方が悪いですよ!冷静でいられるわけないでしょ。…あ、でもこれ、業務連絡でもあるのか。 俺は高鳴る胸を懸命に抑えて、セリさんの至近距離に立った。彼女の机に手をついて、そっと顔を近づけ、目を覗き込む。 「…セリさん、産んでくれるんですね」 一瞬彼女の目の色が揺らぎ、ふとまた目を逸らす。 「当たり前だろ。わたしの子だもん」 抱きしめてキスするつもりだったが、俺の気配を感じ取りセリさんはふいと席を立った。そのまま背を向けてキッチンに行ってしまう。
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