『1』

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俺が先ほど、までダイブしていた世界は――【シュトゥルムゲヴェーア】。 ドイツ語で、“アサルトライフルの意”を持ったその世界は、そのまま、銃の世界だ。 しかし、“運営公式の正規世界”とは異なる謂わば、“裏世界”。 『剣と魔法モノ』『サバイバルモノ』『恋愛シュミレーションモノ』『推理モノ』などなど様々な“世界”を管理しているが、広大過ぎると、その管理にも限界がある。 刺激を求めたハッカー達が創った模造世界(イミテーション・ワールド)。 大手タイトルに隠れる様に、ひっそりと、だが、確実に“遊びの幅”を持たせたソレは、人気を博している。 理由は、正規には無い現実感(リアリティ)。 通常、脳への疲労などの負荷を減らす為に、感覚を鈍く設定している。 例えば、剣と剣で戦っている時に、相手に斬られたとする――すると、痛みを感じるのではなく、“何かが優しく触れた”様に脳が理解し、体感するのだ。 HPが続く限り、毒沼トラップで、途方に暮れるプレーヤーの姿は、滑稽ではある。 しかし……そんなものに“俺達”は飽き飽きなのだ。 よりリアルに、よりスピーディーに、よりエキサイティングに、よりデンジャラスに――欲求を求めればキリがない。 些か人格に異常があるのではないか……と思うが、割りとこういう人種は、現代社会に多いらしい。 故に、“エイム・リロードを含めたキャラクター行動へのシステムアシストの徹底排除”と“脳負荷ギリギリ設定の痛み”が売りの【シュトゥルムゲヴェーア(銃の世界)】は多くのゲーマーを魅了している。 ――らしいのだが、 「俺、魅了されてねぇーんだけどな……」 ベットに座りつつ、やっぱ、ファンタジー系に戻そうか……と考えていると、 「――お兄ちゃーん! まだダイブしてるのー? ご飯だよー!」 一階のリビングから我が妹の良く通る声。 ダイブ中は、安全装置(セーフティ)として、一定の振動や音で、強制ログアウトする仕組みだが、今ので確実に起こされただろう。 「近所迷惑だってーの」 小さく笑いつつ、俺は重い脚を引きずりながら、階段を下りて行く。 … …… ………。
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