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髪をいじりながら、少しだけ俯く。
もう、涙が零れ落ちそうだ。
「佐伯っ!」
私の名前を呼ぶ声が、救いの声に聞こえた。
きっと、あと1秒でもこの場に居たら、泣いていた。
「……………倉本。」
眼鏡の奥の瞳は、歪んだ顔の私を捕えて、優しく微笑んだ。
「桑原、悪い。佐伯のこと、借りていいか?」
そんな言葉と共に、私の右手首を掴む。
聞いておきながら、YES以外の返事は受け付けない問い方だ。
勿論、カナコも頷く他無い。
「あ、うん…。」
「話してたのに、悪いな。」
「いいよ、別に…。リョウ、またね。」
カナコが別れの言葉を述べた後、隣にいたマイさんも会釈してくれた。
私は、口を開いたら涙が零れ落ちそうで、ぎこちなく微笑み返し頭を下げる事しかできなかった。
工事で渋滞が続く道を横目に、手首を掴まれたまま、倉本の後を歩く。
会社を出て、駅とは逆方向。
たぶんカナコ達と同じ方向へ行かないように気を使ってくれたんだろう。
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