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「泣きそうな顔してたから、強引に連れて来ちゃったけど…、迷惑だったか?」
「迷惑じゃないよ。……逃げ出したかったの…。」
スーツの裾を、掴む力が強まる。
それに比例するように、私の右手首を掴む、倉本の力も強まった。
「佐伯は、最近いつもそんな顔してる。」
「え?」
「あの人が来てからだ…。」
「あ、あの人…?」
続く言葉を予測して、動悸が激しくなる。
「黒沢さん」
そう呟くと同時に、倉本は私の方へ振り返った。
車道を走る車のヘッドライトに照らされて、倉本の表情がよく見える。
笑っているのに、どこか物悲しい表情。
見ているだけで、こっちまで切なくなる。
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