童貞地縛霊

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 しかも、今では事故物件に関する情報 を集めたサイトもあるようで、部屋の見 学者はめったに来ない。さらに、世間に は霊感なるものを持っている人が確かに いるらしく、そういう人がアチコチで、 「あそこはいるね」「窓から見えた」な どと言いふらすせいで、近所ではすっか り幽霊アパートと呼ばれているらしい、 というのを、たまに掃除をしに来る大家 さんと不動産屋さんの会話で知った。  これでは、イケメンどころの話じゃな い。入居者など現れまい。おまけに隣の 部屋に住んでいた冴えないホストも、下 の部屋にいた外国人の姉妹(だと思われ たのだが)も引っ越してしまい、二階建 て四部屋の小さなアパートに、生きてい る人は一人も住んでいない。(一階の一 部屋は、元々何故か、誰も住んでいなか った)   夜更けになると、人気のない静けさが 実に薄気味悪く、霊の僕でも後ろをそっ と振り返る。  もう無理だろう。僕は永遠に成仏でき ない。このアパートはポルターガイスト アパートと呼ばれるだろう。などと半ば 諦めかけた、ある日のこと、隣室に入居 者が現れた。  しかも、薄い壁から漏れ聞こえてくる 話し声からすると、おそらく二十歳前後 の若い女性だ。  少し鼻にかかった甘えた声で、友達と 電話している声など聴くと、好きだった 某セクシー女優の声と似ている気がして、 僕は、彼女が部屋にいるときは、その一 挙手一投足も気配を聞き逃すまいと、隣 室との壁に、ぴったりと張り付くのが日 課となった。  彼女は、隣の部屋で地縛霊が壁に張り 付いて聞き耳を立てているとも知らずに、 掃除をし、食事をし、着替えをし、風呂 に入って、トイレに行くのだ。  何故か、なんとも言えない優越感を覚 えた。
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